更新情報News
とある男が臭気判定士になってからのつぶやきー第26回ー
臭気判定士をもっと皆さんに知ってほしいということから、臭気判定士会の理事の一人の方が10年近く書き続けたエッセイをご本人の許可をいただき、紹介していきます。
臭気判定士ってどんな人?これから臭気判定士になってみたいと思う方にも、身近に感じていただけるのでは?と思いますが。
とある男が臭気判定士になってからのつぶやきー第26回ー
『臭気判定士』ってのは……知らないと思うけど国家資格者なんだ。超地味な資格だけどね。
仕事? 当然「ニオイを嗅ぐこと」他になにがあると思う?
嗅ぐのはほとんど悪臭だけど、たまに女性の髪を嗅いだり……足を(ゴホン
まあ、一般のヒトが知らない『におい・匂い・臭い』世界のことをちょっと語るから。ヒマなら読んでくれ。
第26話「犯罪は、缶詰チリーのニオイ」
家の中のニオイってどんなだって? よーやっとそれ聞いてくれましたね。私の稼ぎはほとんどそれなんです、年間何十件も家やらビルやらホテルやらを調べるのが主な仕事。
何でそれで『においの探偵』なのかって? 説明してませんでしたっけ? 家とか部屋とか、とにかく人がいる空間の中に出てくるニオイを調べるのは凄~く難しいんです。
まず苦情の元になっているニオイが何なのかわからないことが多い。「下水くさい」とか「カビくさい」なんてニオイの質がはっきりしているのは半分くらいで、もう半分は「何だかわからないけどにおいが気になる」って苦情です。
だから、現場に行っても何を調べたらいいのかわからない。犯罪捜査で言えば、「犯人像不明」って状態。性別も年齢も特徴もわからない。わかっているのは「犯罪があった」って事実だけ。
刑事だったら聞き込みやら何やらで、犯行時刻前後に不審人物がいなかったかを調べますけど。やっかいなニオイトラブルを事件に例えると「目撃者なし・付近に人家なし」みたいな状態で、聞き込みをする相手もいない。
昔の『刑事コロンボ』みたいなストーリー仕立てだと、現場に残されたちょっとした不整合に気がついてそこから犯人をたぐっていくなんて展開がありましたね。すみません……テレビはほとんど見ないんで、昔の番組しか出てきません。『踊る大捜査線』って見たことありません。
コロンボさんだと、『浴室が使われた形跡がないのに石けんが濡れていた』とかね。そんな些細なことを見落とさずに、なおかつその小さな不整合が事件と関連するかどうかをどんどん検証調査していく。これは脚本家の腕ですね。
あ、ちなみに。コロンボさんの好物は『チリー』で、最初に放送されていた当時は誰も『チリー』がどんな料理だか知らなかったらしくて。『カレーやチャーハンのような庶民的な料理』なんて全然料理の説明になってない解説を見たことがありました。
チリーが普通に食えるようになったのはウエンディーズのメニューからでしょうかね?それから『チリコンカン』とか『チリコンカルネ』の名前で出回り始めましたけど、少なくとも私はホーメルの缶入りチリーより先にそれ食べました。チリシーズニングをダブルで入れて。昔はベイクドポテトもメニューにあって、あれは美味かったです。
ウチで食べる時はホーメルの豆入りにさらにヒヨコ豆足してチリパウダーも足して煮て、煮上がる寸前に刻みタマネギをどっさり入れます。それをイケアで売っている『シンブレッド』って春巻きの皮みたいに薄いパンと一緒に食べるんです。
コロンボさんは豆入りも豆なしも好きだったみたいですけど、『豆なし』はただの肉チリソース煮込みですからね。逆にちょっと寂しい。
そう言えば……また古いネタで恐縮ですけど『ローハイド』って昔のテレビドラマで。あれは南北戦争の頃のアメリカで牛を運ぶカウボーイのお話でしたけど。ウイッシュボーンって料理人が作るメシを「また豆かよ……」と文句言いながらカウボーイたちが地面に座って食べるシーンがありました。
あれはチリビーンズだったのかポークアンドビーンズだったのか知りたいんですよね、今でも。でもモノクロの作品だから今見直したとしてもわからないでしょうね。ウイッシュボーンが料理しているシーンって記憶にないし……。
しかし推理してみると、当時の携行食糧は乾物か燻製か塩漬けしかありませんからね。1870年代だからギリギリ缶詰食品が普及し始めた頃ですけど、キャンベルの缶詰がテキサスのど田舎にまで行き渡ったのはずっと後でしょうね。
当時隣のメキシコがフランス支配下にあった影響で、入手できたとすればフランスの軍用缶詰だったかも知れません。アメリカで缶詰製造が機械化されて大量生産ができるようになったのは1877年からです。
ええ、私は食い物についてはもの凄く執着するんです。
キャンベルの挽肉缶でもない限り、どこかで野生動物を撃つか運んでいる牛が何かで死なないかぎり生肉なんか手に入らないし。すると肉はベーコン以外考えられない。となるとやはりカウボーイたちが食っていたのはポークアンドビーンズになりますね。
たぶん味付けは塩とコショウだけでしょうけど。デルモンテのトマト缶詰が登場するのは1899年ですから。
えーと、チリーから話が大脱線したぞ……まあいいや。アメリカの缶詰第一号は、オイスターだったそうです。たぶん塩漬けか、燻製オイル漬けでしょうね。これが1818年だそうです。
1896年には缶の胴体をしっかり接着するシーリングコンパウンドって接着に使う資材が発明されて、それまでハンダ付けだった缶の気密性能が一気に良くなって量産も効くようになりました。それで金属を腐食させちゃうトマトの缶詰の保存性が良くなって、デルモンテも商品化に踏み切れたのかも知れませんね。
こんな具合にですね、ひとつの技術がいろいろな歴史のステップを形作っていくんです。食い物と工業技術のことを調べているだけでも、いろいろな歴史の細部がよく見えてきます。まあニオイとは関係ありませんけど。
つづく